忘備録:トランプ式交渉術の肝は、Empathy
自転車トレーニングゲーム Zwift をしながら聴いたポッドキャストの内容が気になったので書き留めておく。ビジネスの世界で鍛えた交渉術に長けているというのが、トランプ自身も認める政治家としての売りだが、果たして専門家はどう見るのか? ニューヨークタイムズが、FBIで25年間に渡り多数の誘拐や人質解放など難しい交渉を長年経験してきた クリス・ヴォス(Chris Voss)氏に聴いた。現在同氏は、交渉術を教えるコンサル会社を経営し、講演活動もしている。ヴォス氏が経験から身に着けた交渉術の肝は、「tactical empathy(戦術的共感)」、交渉相手に合意する必要はないものの、相手を理解(共感)することが前提にあるという。そして、トランプの交渉術もそれが見受けられるというのだ。
トランプの交渉術が上手かどうかはさておき、私がこのインタビュー記事で気になったのが、ヴォス氏とトランプの接点とそこから生まれたヴォス氏のトランプ観だ。彼がニューヨークでヘルプライン(命の電話相談)でボランティアしていた頃、トランプ家が通う教会の1部屋を利用していた。そのつながりから寄付集めのイベントにトランプタワーを使わせてもらったところ、トランプ本人も来場して、その協力的な姿勢に感銘を受けたというのだ。
ここで私が引っかかるのが「教会」。白人向けのキリスト教会人脈だったと思われる。トランプの交渉術における「戦術的共感」を使って理解し合える相手は、多分白人でキリスト教徒という前提なのではないのか? 非白人、非キリスト教徒、広く言えば西洋文明に属さない相手には共感しない、できない。見方を180度変えれば、彼の支持者であるMAGAの多くは、その部分に惹かれるのかもしれない。
プーチンはかなり遠く離れているももの、西洋文明を背景として持った相手と考えられるし、ネタニヤフ(祖先はヨーロッパ系ユダヤ人で、本人はアメリカで一時期育ち、米国の大学も出ている)は完全に話の通じる相手だろう。伝統や文化背景が異質な中国や南アフリカ、中南米諸国(カソリック教徒が多いが)などとは交渉術がかみあわないし、最初から見下す態度でしか望めない。うわべは西側の一員のふりをしている日本とか韓国はちょっと特殊な面があるけど、西洋文明・文化を基盤とする民族、国家ではないし、見下してるのは確か。トランプの交渉においては、戦術的共感を使って交渉できる相手と、米国の軍事、経済力を背景に脅しと力でしか、対応できない相手に分かれると私は考える。ウクライナとゼレンスキー大統領は前者、パレスチナは後者ではないか。残念ながら、NYTのインタビュー記事は西洋文明側からだけで、そこに属さない相手との交渉についての視点はない。
The Interview:This World-Renowned Negotiator Says Trump’s Secret Weapon Is Empathy (New York Times)